ピノキオの童話の中に、狐と猫の二人組みに、ピノキオが金貨を騙し取られる話があります。
ある野原に金貨を埋めておくと、それが夜中に芽を出して成長し、翌朝には金貨が鈴なりになっているというので、ピノキオはわざわざその寂しい野原まで出かけていって、なけなしの金貨を埋めます。
私の子供にこの話をすると、「自分はピノキオみたいに簡単に騙されない」「ピノキオはバカや」と言ってましたが、案外、そう簡単な話でもないのです。
これからのお話は、私がまだ小学校の3~4年生だった頃、本当にあったお話です。
小学生だった私が、どういう風の吹き回しか、かわいい鏡をもらったのです。それは片手にすっぽり入るような小さな長方形の鏡で、子供が持つようなものではなかったと思います。きれいに、キラキラと映る鏡で、まぶしいほどでした。もちろん、私の宝物になりました。
その宝物を、あるとき、近所のお友達に見せて自慢したのです。その子は、いつも一緒に遊ぶ近所の女の子で、きかん気だけど利発だと評判のお子さんでした。
私の宝物を見せると、その子は、急に鏡が欲しくなったようで、私は鏡をねだられてしまいました。
その子は、こういうのです。
「鏡なんて女の子の持ち物よ。男の子が持ってるなんておかしいワ」
私は、それもそうだとは思いましたが、きれいな鏡をあげるのは惜しかったので、厭だと断りました。
その数日後のことです。その子から、相談を持ち込まれたのです。
それは、鏡の実験をしたいということでした。
鏡を地面に埋めておくとどうなるか、実験しようというのです。
私は、「鏡なんて、地面に埋めても、いつまでも鏡のままだよ」といったのですが
その子は、承知しませんでした。「鏡は、埋めてしばらくすると土の中で分解されて、消えてなくなる」というのです。
私は、そんなことは絶対ないと言ったのですが、「ジャ~、実験してみよう」という話になりました。
そこで、二人して地面に穴をほって、鏡を埋めてみることにしました。もちろん、スコップを家から持ち出してきて、穴を掘ったのは私です。女の子は、それを見ていました。
二~三日後に、私は気になってそっと掘り出してみたのですが、鏡はなんともなく、埋めたまま状態でした。ところが、その翌週に掘りだそうとしたら、鏡が見当たらないのです。
私は最初、掘る場所を間違えたのかなと思いました。一週間もすると、埋めた場所はわかりにくくなっていました。そこで、付近をアチコチ掘り返したのですが、やはりでてきません。鏡は忽然と消えてしまったのです。
私は、いくらなんでも、埋めた鏡がバクテリアで分解されるようなことは絶対ないと思えました。
でも、現実に鏡は消えていました。鏡が消えたことを言うと、その女の子は、「私が言ったとおりでしょ。鏡も土に埋めておくと、分解されてなくなるのヨ」と答えたのです。
結局、それが事実なのかどうか、釈然としないまま時は過ぎていきました。
あるとき、その女の子が何かを覗き込んでいるので、声をかけると、何かをさっと隠しました。それがキラリと光ったので、鏡か?と聞いたのですが、「ううん、違う。なんでもないから」と、その女の子は応えたのです。
私もそれが鏡かどうか、何しろ一瞬のことだったので、自信はありませんでした。
とこうするうちに、「○○君ちに、遊びに行こう」とその子に誘われて出かけたのですが、鏡のことが話題になることはそれ以来、二度とありませんでした。
今思うと、鏡を誰が手に入れたのかわかります。
しかし、その当時はわかりませんでした。
「土の中に消えたかどうか、場所もよくわからないし、確かめようがないな」と、私は思い、それ以上は深く考えることもなかったのです。
そんなボンヤリした子供だった私ですが、当時、妙に心にひっかかった事が一つありました。
実は、その鏡を埋めるときに、私は「カエルを一緒に埋めたらどうなるか、見てみたい」と思ったのです。残酷な話ですが、面白半分で子供がやりそうなことです。
そこで、カエルを2~3匹捕まえてきて、埋めようとすると、その女の子が猛烈に反対したのです。私は、それも実験だと主張しました。
「2~3ヵ月後には、鏡もさびているだろうし、カエルは骨になってるゾ」「よし、埋めよう」といったのですが、その女の子は、「怖いから、そんなこと、絶対やめて」といったのです。
そのあまりに必死な様子が、私にはいかにも唐突に感じて、何がそんなに怖いのかな?と、ちょっと不思議に思ったのです。しかし、その子があまり頼むので、結局カエルの命は助けてやることにしました。
ピノキオの話を聞くと、なぜか、この子のことを思い出します。
もちろん、いまなら、なぜその子はカエルをそんなに怖がったのか、よくわかります。